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仙台地方裁判所 平成7年(ヨ)102号 決定

債権者

A

外一六名

右一七名代理人弁護士

草場裕之

齋藤拓生

吉岡和弘

債務者

株式会社甲

右代表者代表取締役

H

右代理人弁護士

長澤弘

債務者

乙信託銀行株式会社

右代表者代表取締役

T

右代理人支配人

K

右代理人弁護士

浅沼貞夫

債務者

丙建設株式会社

右代表者代表取締役

S

主文

一  債務者株式会社甲は、別紙第一物件目録1記載の土地上に建築中の同目録2記載の建物の八階部分の建築工事を続行してはならない。

二  債権者Bを除く債権者らのその余の申立てを却下する。

三  債権者Bの申立てを却下する。

四  申立費用のうち、債務者乙信託銀行株式会社及び同丙建設株式会社に生じた費用は債権者らの負担とし、債権者Bに生じた費用は債権者Bの負担とし、その余の債権者らに生じた費用及び債務者株式会社甲に生じた費用は債務者株式会社甲の負担とする。

理由

第一  申立ての趣旨

一  債務者らは、別紙第一物件目録1記載の土地上に建築予定の同目録2記載の建物及び右建物に付属する駐車場のうち別紙第一図面赤色斜線部分中の二階部分を建築してはならない。

二  債務者乙信託銀行株式会社は、右目録2記載の建物についての販売代理業務を行ってはならない。

第二  事案の概要

当事者間に争いがない事実、疎甲第四、第九、第一〇、第一四、第四四号証、疎乙第二、第三、第五号証、第一三号証の一ないし四、第一五号証、第五六号証の一ないし一六、疎丁第二号証、審尋の全趣旨を総合すれば、以下の事実が一応認められる。

一  当事者

1  債権者B以外の債権者ら

債権者B(以下「債権者B」という。)を除く債権者ら(以下「債権者Aら」という。)は、平成四年九月又は一〇月ころ(ただし、債権者Cについては同年一一月ころ、債権者D及び同Eについては平成五年二月ころ)、債務者株式会社甲(以下「債務者甲」という。)から、それぞれ別紙第二物件目録1記載の建物(以下「エクレールⅠ」という。)のうち同目録2記載の各専有部分(以下「本件各専有部分」という。)を、別紙売買代金一覧表記載の価格で買い受け、その所有者となった。

2  債権者B

債権者Bは、別紙第三物件目録記載の建物(名称「カーサ二丁目」。以下「カーサ二丁目」という。)を所有している。

3  債務者甲

債務者甲は、建設工事の施工、不動産の売買等を業とする株式会社であり、エクレールⅠを建築し、前記1のとおり、債権者Aらに本件各専有部分を売り渡した。その後、債務者甲は、平成六年二月二八日、エクレールⅠの敷地に隣接する別紙第一物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を東北造船株式会社(以下「東北造船」という。)から買い受け、同年四月二一日、その旨の登記を経由し、同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築を計画し、債務者丙建設株式会社(以下「債務者丙建設」という。)に本件建物の建築を注文した。

4  債務者丙建設

債務者丙建設は、建設工事の請負等を業とする株式会社であり、債務者甲から本件建物の建築工事を請け負い、平成六年一一月一日、本件建物の建築工事を開始した。

5  債務者乙信託銀行株式会社

債務者乙信託銀行株式会社(以下「債務者乙信託」という。)は、信託業務等を業とする株式会社であり、債務者甲から依頼を受けて、エクレールⅠの本件各専有部分の販売代理業務を担当したものであり、また、本件建物の販売代理業務を担当するものである。

二  本件建物の概要

本件建物の概要は、以下のとおりであり、エクレールⅠとの位置関係は、別紙第一ないし第三図面のとおりである。

1  名称    エクレール多賀城中央ヒルズⅡ

2  構造    鉄筋コンクリート造地上八階地下一階建

3  種類    共同住宅

4  総戸数    一〇一戸(分譲戸数九九戸、その他管理人室一戸、集会室一戸)

5  建築面積  2332.04平方メートル

6  建築延面積 8913.69平方メートル

7  建ぺい率  52.09パーセント

8  容積率   176.33パーセント

三  本件土地

1  本件土地は、エクレールⅠの敷地の南側隣地であり、本件建物、本件土地及びエクレールⅠの位置関係は、別紙第一ないし第三図面記載のとおりである。

2  日影規制

本件土地は、第二種住居専用地域内に位置しており、建築基準法五六条の二第一項及びこれを受けた宮城県建築基準条例六条の二の規定に基づき、本件土地上の建築物は、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの間において、平均地盤面からの高さ四メートルの水平面に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超え、かつ、一〇メートル以内の範囲において四時間以上、一〇メートルを超える範囲において2.5時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならないと定められている。

四  カーサ二丁目

カーサ二丁目は、本件土地の北側に位置し、主として学生に賃貸されている(入居者全員が徒歩約四分の地にある東北学院大学工学部の単身者)二階建アパートであり、本件建物、本件土地及びカーサ二丁目の位置関係は、別紙第一及び第四図面記載のとおりである。

第三  争点

本件の争点は、債権者らの本件建物建築工事の差止請求権の有無であり、これに関する当事者双方の主張の要旨は次のとおりである。

一  債権者Aらの主張

1  債務者甲について

債務者甲は、債権者Aらに対し、以下の義務を負担しており、債権者Aらは、債務者甲に対し、本件建物及び本件建物に付属する駐車場のうち別紙第一図面赤色斜線部分(以下「本件駐車場部分」という。)中の二階部分(以下、本件建物及び本件駐車場部分の二階部分を合わせて「本件建物等」という。)の建築工事の差止めを求めることができる。

① 本件各専有部分の売買契約の内容として、本件各専有部分の眺望及び日照を確保し、本件建物の建築等を止める義務

債務者甲は、債権者Aらに対し、エクレールⅠの内容について眺望及び日照を強調した説明資料を交付し、「最下階の二階でも全面に遮るものもなく、眺望採光とも心配ないこと」、「さらに上階では遠くに海も望めること」を保証したものであり、債務者甲と債権者Aらとの売買契約上、少なくとも債務者甲自身が本件各専有部分の眺望及び日照等の住環境を阻害する建物を本件土地上に建築しないことが契約内容となっている。

② 信義則に基づいて、本件各専有部分の眺望及び日照を確保し、本件建物等の建築を止める義務

債務者甲は、眺望及び日照を強調した宣伝、広告及び説明を行うことにより、債権者Aらに対し、本件土地にエクレールⅠの眺望及び日照等の住環境を阻害する建物が建築されることはないとの信頼を惹起し、債権者Aらは、そのような信頼を前提として債務者甲との売買契約締結を決意したものである。にもかかわらず、債務者甲は、あえて本件土地を取得して本件建物等を建築しようとしており、本件建物等が建築されれば、本件各専有部分の眺望及び日照は阻害され、本件土地上の緑も失われる結果となり、債権者AらがエクレールⅠを購入した当時に確保されるものと信頼した住環境が損なわれることになる。

したがって、債務者甲が本件建物等を建築することは、債権者Aらに対し、本件土地にエクレールⅠの眺望及び日照等の住環境を阻害する建物が建築されることはないとの信頼を与えるきっかけとなった自らの宣伝、広告及び説明と完全に矛盾する行動であり、債権者Aらの信頼を著しく裏切る禁反言的な行動であるから、信義則に反し許されないものである。

さらに、債務者甲の信義則違反の程度は、あえて本件土地を取得するという積極的行為の存在、本件土地の取得時期、本件建物等の建築計画における債権者Aらに対する配慮の不十分さ等の各事情に照らして極めて悪質かつ重大なものである。

③ 債権者Aらの本件各専有部分所有権又は人格権を侵害することがないように、本件各専有部分の眺望及び日照を確保する義務

債権者Aらには、本件建物等の建築により、以下の損害が生ずる。

ア 日照被害

本件建物等の完成により、本件各専有部分には、冬至において、五時間ないし三〇分の日照被害が発生する。

イ 眺望被害

本件建物等の完成により、本件各専有部分の南側眺望は、本件建物等によって完全に遮断される。

ウ 財産権侵害

本件各専有部分の交換価値は、本件建物等の完成により日照被害、眺望阻害を受ける結果、著しく低下することになる。

エ 安全、平穏、快適な生活利益の侵害

本件建物の駐車場及びゴミ置き場がエクレールⅠとの境界線に寄せて設置されることから、債権者Aらは、排気ガス被害、騒音被害、夜間のヘッドライトによる安眠妨害、悪臭被害等種々の生活利益の侵害を被ることになる。

2  債務者乙信託について

債務者乙信託は、エクレールⅠの販売代理業務を担当して債務者甲の代理人として行動し、債権者Aらに対し、本件土地にエクレールⅠの眺望及び日照等の住環境を阻害する建物が建築されることはないとの信頼を惹起した。にもかかわらず、債務者乙信託は、さらに、本件土地の売買を積極的に仲介し、本件建物の販売代理業務を担当しており、自ら惹起した信頼を著しく裏切っている。

したがって、債権者Aらは、信義則に基づいて、債務者乙信託に対し、本件建物の販売代理業務の差止めを求めることができる。

二  債権者Bの主張

債権者Bは、カート二丁目の所有権又は人格権に基づいて、カーサ二丁目の日照を侵害する本件建物等の建築を差し止める権利を有する。

本件建物等の完成により、カーサ二丁目は、冬至において一日中日影となるのであり、その日影被害は受忍限度をはるかに超えるものである。

カーサ二丁目は、八名の入居者を有する二階建アパートであるところ、このような日影を受けることになるならば、入居者が激減することは当然に予想される。

本件建物の北東部と西端部分のそれぞれ八階部分を一室ずつ削減することにより、カーサ二丁目は、冬至において一日三時間の日照が確保されるものであり、債権者Bの日影被害と債務者甲の設計変更による損失を比較するならば、右のような限度の建築差止めは認められるべきである。

三  債務者甲の主張

①  本件各専有部分の売買契約の内容

債務者甲と債権者Aらとの間の売買契約の内容は、売買契約書及び重要事項説明書に定められているところ、そのいずれにも本件土地に本件建物を建ててはならないという記載はない。債権者Aらとの契約当時、本件土地は東北造船の所有に属しており、債務者甲が自己の支配権の及ばぬ他人の土地について将来にわたり変化が生じないことを保証するはずがない。

②  信義則

エクレールⅠの開口部は東側及び西側にあり、エクレールⅠの眺望は専ら東側を中心に考えられていた。債務者甲がエクレールⅠの販売に際して行った眺望についての説明は、専ら東側についてのものであるところ、エクレールⅠの東側及び西側の眺望は本件建物によってほとんど阻害されないから、右説明に反するものではない。

債務者甲が債務者乙信託から本件土地の取得を持ちかけられたのは平成五年六月以降であり、エクレールⅠの第一期分譲である平成四年九月には、債務者甲には本件土地を購入する予定は全くなかった。

都市計画法及び建築基準法の規制に適合する最大限の建物を建てようとすれば、建ぺい率52.09パーセント、容積率192.40パーセント、九階建一〇八戸の建物を建てることができるところ、債務者甲は、可能な限り近隣への影響を少なくするため、本件建物を建ぺい率52.09パーセント、容積率176.33パーセントとした。債務者甲のエクレールⅠへの最大の配慮は、離間距離を可能な限り長くしたこと(最短距離において三四メートル、本体部分でも41.50メートル)、及び階層を一階減らすことで高さを低くしたことである。

近隣住民への説明も、看板を立てることから始まって説明文書の配布、全体説明会、個別の説明会等数多くもち、十分誠意を尽くしている。

③  所有権又は人格権

本件建物は、都市計画法及び建築基準法の規制に適合するものである。

建築基準法上の受影面における日影時間はエクレールⅠで三時間、カーサ二丁目で一時間にすぎない。具体的な日影時間をみても、債権者B及び同D(以下「債権者D」という。)以外の債権者らの日影は二時間三〇分以下であり、受忍限度内である。

債権者B及び同Dに長時間の日影が及ぶのは、本件土地が一〇メートル以上も高いということに起因するものである。また、債権者Dは、エクレールⅠ完成間際に売買契約を締結したものであり、南側の日照眺望がよくないことを承知の上で購入したものである。

前記のとおり、エクレールⅠの開口部は東側及び西側にあり、エクレールⅠの東側及び西側の眺望は本件建物によってほとんど阻害されない。

四  債務者乙信託の主張

債務者乙信託は、債権者らと何ら契約関係にはなく、契約上の義務を負担することはない。

債務者乙信託は、エクレールⅠの販売後である平成五年六月ころ、本件土地を売却したいという東北造船の意向を知ったが、本件土地はマンション用地として適した土地であり、債務者乙信託としては、むしろ既にエクレールⅠを建築している債務者甲がエクレールⅠに十分配慮し、調和のとれた建物の建築が期待できると考えて債務者甲に仲介したものである。

五  債務者丙建設の主張

債務者丙建設は、債務者甲から本件建物の施工を依頼されたにすぎず、本件仮処分申立ての債務者とされる理由がない。

債務者丙建設は、本件建物建築工事に当たり、平成六年一〇月三〇日に工事説明会を開き、同年一二月二二日にエクレール多賀城中央ヒルズ管理組合と建築協定を結び、立場上できる範囲で債務者らの環境保全のため協力をしてきている。

第四  争点に対する判断

一  本件仮処分申立てに至る経緯

1  当事者間に争いのない事実、疎甲第一、第二、第七、第九、第一〇、第一三、第一四、第二九ないし四五号証、第四八号証の一ないし八及び第五〇号証、疎乙第二ないし第五号証、第六号証の一ないし四、第七号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二、第一二号証、第一三号証の二、第一八、第二七、第二九、第三〇、第四七、第五二号証、第五六号証の一ないし一六及び第五七号証、疎丁第二号証並びに審尋の全趣旨を総合すれば、以下の事実が一応認められる。

① 債務者甲が作成したエクレールⅠの広告(疎甲第一、第一三号証)には、「緑豊かな眺望の丘に誕生」、「豊かな緑と絶好の眺望」と大きく記載され、中央には現地からの眺望の写真が掲載されており、眺望の良さを強調するものとなっている。また、債務者甲がエクレールⅠの購入希望者に配布したパンフレット(疎甲第二、第一三号証)には、「《眺望》『眼下に広がる街並みと緑の丘の光と風を呼び込んでひときわ優越感』最下階の二Fでも全面に遮るものもなく、眺望、採光共心配ありません。さらに上階では遠くに海も望めます。バルコニーから四季折々の史都の街並みを一望できるもの『エクレール多賀城中央ヒルズ』ならではの贅沢と言えるでしょう。」と記載されており、眺望及び採光の良さを強調するとともに、購入希望者に眺望及び採光が確保されることについての信頼を形成させる内容となっている。

② 債務者甲の販売担当者らは、債権者Aらに対し、右①記載のパンフレットを用いたり、建設途中のエクレールⅠに上り、「市内が一望できますし、上の階からは海も見えますよ。」等と説明するなどし、眺望の良さを強調した販売方法を行った。また、債権者D(二〇一号室)、同F(三〇四号室)、同E(四〇一号室)に対し、低層階でも日照が十分得られることを強調した。

③ エクレールⅠの敷地の南側隣地である本件土地上には、かつて進駐軍の将校用住宅であった建物を利用したレストン「やかた」が存在し、多くの樹木に覆われていた。

債権者Aらは、右レストラン「やかた」が営業していないことから、前記販売担当者らに対し、本件土地にマンションが建つのではないかと質問したところ、同担当者らは、日照権の問題、右レストランの建物の歴史的重要性等を理由にマンション建築の可能性を否定した。

④ エクレールⅠの本件各専有部分の販売価格をみると、日照及び眺望に恵まれた上の階の方が下の階より高く設定されており、消費税を除いた価格の差は、一階当たり、Aタイプでは一四〇万円、Cタイプでは二〇万円ないし五〇万円、Hタイプでは三〇万円ないし六〇万円、Gタイプでは三〇万円ないし五〇万円であった。

⑤ 債権者Aらは、債務者甲の作成した広告の記載及び販売担当者の説明から、本件各専有部分の日照及び眺望が阻害されることは当面ないものと信頼するに至り、前記のとおり平成四年九月ころから平成五年二月ころにかけて、本件各専有部分の眺望及び日照が良いことを主要な動機の一つとして本件各専有部分を購入し、平成五年三月ころ、本件各専有部分に入居した。

⑥ 債務者甲は、平成五年九月ころ、債務者乙信託から本件土地の買い受けについての打診を受け、本件土地上のマンションの建築について検討した結果、平成六年二月二八日、東北造船から本件土地を買い受け、同年四月二一日、その旨の登記を経由した。

⑦ 債務者甲は、株式会社有明建築企画に本件建物の設計を依頼し、平成六年六月二〇日、本件建物についての「建築計画のお知らせ」の看板を設置した。

債務者甲は、同月二一日、債権者らを含めた近隣住民に対し、本件建物の建築計画の概要を知らせる書面を配布したが、右書面では、日影については、「中高層建築物に対する日影の規制は、建築基準法に定められておりますが、当計画はその範囲で施工します。」と記載されている。

⑧ 債務者甲は、同年八月二五日、第一近隣説明会を開催したが、債権者Aらが設計変更の可能性について質問したのに対し、「建物の躯体変更を伴う変更はできません。」、「法チェック、営業面、施工上等検討し、プランが固まります。もし、皆様の要求を聞きながらという感想を持たれる回答をしたなら誤りです。」等と回答したが、設計変更が困難である理由については、特段説明をしなかった。

⑨ 債務者甲は、同年九月三日、債権者AらエクレールⅠの住民を対象として第二回近隣説明会を開催したが、債権者Aらが眺望及び日照の問題を指摘し、設計変更、補償金の支払、本件建物への移し替えを希望したのに対し、「第二種住居専用地域という制限が厳しい地区での計画であり、現状日照図の範囲で収められている本設計が限度です。」、「法のもとで施工させていただくわけですので、補償金は発生しませんし、考えておりません。」、「この八階という設計は変更できません。」と回答し、これを拒否した。

⑩ 債権者Aらは、同月二〇日、設計変更、補償金の支払、本件建物への移転等各人の希望をまとめ債務者甲に提出したが、同月二九日、債務者甲は、駐車場については日照阻害等の観点から設置高、機種、使用材料等の問題を検討するが、その余の問題については、個別に対応する旨回答した。

⑪ その後、債務者甲に代わり株式会社有明建築企画が債権者Aらと対応し、同年一〇月一一日、一二日、二〇日及び二七日と債権者Aらと協議が行われたが、債務者甲側は、駐車場については債権者Aらの要望を検討するとしたものの、設計変更については拒否し、債務者甲がエクレールⅠを販売したことに伴う問題については改めて協議するにとどまった。

⑫ 債権者Aらとの協議を行う一方、債務者甲は、同年九月二八日、多賀城市に本件建物についての建築確認を申請したが、同年一〇月二一日、建築確認を得ると、本件建物の建築工事を債務者丙建設に注文し、同年一一月一日、建築工事に着工した。

⑬ 債権者Aらは、同月二八日、債務者甲を相手方として建築計画変更等を求める調停を申し立て、同年一二月二〇日、第一回調停期日が開かれたが、平成七年二月九日、第二回調停期日において、債務者甲が工事を暫定的に中止すること及び建築計画変更を一切拒否したことから不調となった。

⑭ 債務者甲は、平成六年一二月二二日、債務者丙建設とともに、エクレール多賀城中央ヒルズ管理組合との間で、作業時間及び騒音対策等についての工事協定を締結したほか、本件建物の建設について、通路へのガラススクリーン等の設置、本件土地上の一部の樹木の伐採の中止、本件建物の集会所及びプレイロットについてのエクレールⅠの入居者による利用権の設定、ゴミ集積場の場所の変更、駐車場の地盤の二メートルの堀り下げ等の譲歩をした。しかしながら、債権者Aらの希望した本件建物の設計変更、補償金の支払、本件建物への移転については全く応じないまま、債務者甲は、本件建物の販売を完了している。

⑮ 本件建物の建築によって、本件各専有部分からの南側の眺望は完全に阻害されることになるとともに、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの日照について、以下の日照被害が生じる。

ア 二〇一号室(債権者D所有)

午前八時から正午までと午後三時から午後四時までの合計五時間の日影が及ぶ。

もっとも、エクレールⅠの敷地の地盤は、本件土地の地盤より約6.5メートル低く、その境界は崖の法面となっている。そのため、二〇一号室は、部屋全体が本件土地の地盤より下に位置し、こうした地形及びレストラン「やかた」によって、二〇一号室にはもともと午前八時から午前九時三〇分までと午後二時三〇分から午後四時までの合計三時間の日影が及んでいた。したがって、本件建物の建築による日影時間の増大は午前九時三〇分から正午までの二時間三〇分であるが、他方、重複する時間についても日影は拡大しており、その間は本件建物による影響がないということはできない(疎乙第六及び第一〇号証の各一)。

イ 三〇一号室(債権者C所有)

午前八時から午前一〇時三〇分までの二時間三〇分の日影が及ぶ。

ウ 三〇四号室(債権者F所有)及び四〇一号室(同E所有)

午前八時から午前九時三〇分までの一時間三〇分の日影が及ぶ。

エ その他の本件各専有部分にも、三〇分から一時間の日影が及ぶものがある。

二  債権者Aらの債務者甲に対する申立て

1  売買契約違反に基づく差止め

債務者甲が、エクレールⅠの販売に当たり、眺望及び日照の良さを強調するとともに、眺望及び日照が将来にわたって確保されることを期待される説明を行ってきたことは、一に認定したとおりである。しかしながら、債権者Aらと債務者甲との間の売買契約書及び重要事項説明書には、債務者甲がエクレールⅠの眺望及び日照を保証したと解すべき記載はないこと(疎甲第四、第五号証)、債務者甲が、本件土地の取得について打診を受けたのは平成五年九月であり、エクレールⅠの販売当時、債務者甲が、本件土地を取得する計画を有していたなど、債権者Aらに対し、エクレールⅠの眺望及び日照を保証し得る地位にあったとは認められないことに照らせば、債務者甲の債権者Aらに対する右説明内容から、直ちに、債務者甲が債権者Aらに対しエクレールⅠの眺望及び日照を売買契約上保証したものと解することはできない。そして、他に債権者Aらが債務者甲に対し、売買契約に基づきエクレールⅠの眺望及び日照を阻害する建物の建築工事の差止めを求める権利を有することを認めるに足りる疎明はない。

2  信義則違反に基づく差止め

① 債権者Aらは、債務者甲はエクレールⅠの販売の際に日照及び眺望の良さを強調する説明をし、債権者Aらは債務者甲の説明を信頼し、その説明内容を主要な動機として本件各専有部分を購入したのであるから、債務者甲は、信義則上、自ら形成した債権者Aらの信頼を害する行為をしない義務を負うと主張する。

② そこで検討するに、一に認定した事実によれば、債務者甲の販売担当者は、本件各専有部分からの眺望を重要なセールスポイントとし、最下階でも十分な日照があることを強調し、種々の理由を挙げて本件土地にマンションが建築される心配がないことを説明しており、債権者Aらは、こうした説明によって、本件土地に本件各専有部分の眺望及び日照を阻害する建物が建設されることは当面ないとの信頼を形成し、眺望及び日照の良さを主要な動機の一つとして本件各専有部分を購入したものである。債権者Aらのかかる信頼は、債務者甲の広告及び説明並びに本件土地の状況に照らし、合理的なものであったと考えられる。次に、債務者甲と債権者Aらが本件各専有部分の売買契約を締結したのは平成四年九月ころから平成五年二月ころにかけてであり、債権者Aらが入居を開始したのは平成五年三月ころであるところ、債務者甲が本件土地の購入の打診を受けたのは同年九月ころであり、東北造船と債務者甲が本件土地の売買契約を締結したのは平成六年二月であって、債務者甲と債権者Aらの売買契約締結から間もない時期であったということができる。債務者甲としては、マンション建築を目的として本件土地を買い受けたものであるが、本件土地を購入するか否かは債務者甲の選択にかかっていたものであり、債務者甲としては本件土地を購入しないことも、あるいは購入した上でエクレールⅠの居住者に十分配慮した建物を建築することも可能であった。また、債務者甲が本件建物の建築計画についての看板を設置した平成六年六月ころから、本件建物の建築についての債務者甲と債権者Aらの交渉が開始され、債権者Aらは、本件建物の設計変更、眺望及び日照阻害についての補償、本件各専有部分と本件建物の居室との入れ替え等を求めたが、債権者Aらのかかる希望は、売買契約締結の経緯からして無理からぬものと考えられる。これに対し、債務者甲は、債権者Aらとの交渉を通じて、本件建物に設計変更の余地はなく、日照被害についても建築基準法等の規制の範囲内であるから補償はしないという態度に終始し、債権者Aらとの話合いを決着させないまま本件建物の建築に着工し、本件建物の販売を完了しており、債権者Aらとの交渉における債務者甲の姿勢には、客観的にみて誠実性に欠けるところがあったといわざるを得ない。さらに、本件建物の建築により、債権者Aらの本件各専有部分からの南側の眺望は全く阻害され、低層階では少なからぬ日照被害を受けることになる。

③  本件各専有部分の眺望及び日照の良さについての債権者Aらの信頼形成についての債務者甲の関与の程度、債権者Aらの信頼形成の合理性、当該信頼が売買契約締結に至った債権者Aらの動機に占める度合、売買契約締結時から債務者甲による本件建物建築時までの期間の長短、本件建物による本件各専有部分の眺望及び日照阻害についての債務者甲の回避可能性、本件建物建築についての債権者Aらと債務者甲の協議における債務者甲の誠実性の程度、本件建物によって債権者Aらが被る損害の程度等右に述べた各事実にかんがみれば、債務者甲には、債権者Aらに対し、本件土地上に本件各専有部分の眺望及び日照を阻害する建物を建築しないという信義則上の義務があるというべきであって、債務者甲による本件各専有部分の眺望及び日照を阻害する本件建物の建築は、自ら形成した債権者Aらの信頼を害し、右信義則上の義務に反するもので、しかも、その背信性は著しいといわざるを得ず、債権者Aらは、一定の範囲で本件建物の建築の差止めを求め得るといわなければならない。

債務者甲は、都市計画法及び建築基準法の規制に適合する最大限の建物を建てようとすれば、容積率192.40パーセント、九階建一〇八戸の建物を建てることができるところ、可能な限り近隣への影響を少なくするため、容積率176.33パーセント、八階建九九戸として本件建物の階層を一階減らすとともに、エクレールⅠとの離間距離を、最短距離において三四メートル、本体部分でも41.50メートルと可能な限り長くしたと主張する。しかしながら、本件建物の設計が債権者AらエクレールⅠへの配慮に基づいてなされたものであると認めるに足りる疎明はなく、また、仮に債務者甲にかかる配慮が存在したとしても、右に述べた各事実に照らせば、なお債権者Aらとの関係における配慮としては不十分なものといわざるを得ず、信義則違反についての右判断を左右するものではない。

④ ところで、疎丁第二号証によれば、本件建物の建築工事は、すでに七階までの部分の躯体工事及びコンクリート打設を終了し、八階部分の工事に着手した段階にあると一応認められるところ、審尋の全趣旨によれば、本件建物のうち少なくとも八階部分の建築が中止されれば、債権者Aらの眺望及び日照がかなり改善されることは一応認めることができる。これに対し、本件建物のうち七階までの部分については、すでに躯体工事及びコンクリート打設が終了しているのであるから、建築工事の続行の差止めを求めることにより債権者Aらの眺望及び日照が改善され得べきものではない。このことからすると、債権者Aらは、少なくとも本件建物のうち八階部分については建築の差止めを求め得るというべきであり、かつ、その保全の必要性も存在するということができるが、本件建物のうち七階までの部分の建築工事の続行の差止めを求める申立てについては、申立ての利益を欠くといわざるを得ない。

してみると、債権者Aらの申立てのうち、債務者甲に対し、信義則に基づき本件建物の八階部分の建築工事の差止めを求める部分は、被保全権利及び保全の必要性の存在についての疎明があるというべきである。

3  所有権又は人格権に基づく差止め

① 本件土地は、第二種住居専有地域の区域内にあり、建築基準法五六条の二及びこれを受けた宮城県建築基準条例に基づく日影規制は、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までにおいて、平均地盤面からの高さ四メートルの水平面に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超え一〇メートル以内の範囲において四時間以上、一〇メートルを超える範囲において2.5時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならないと定められているところ、本件建物は右日影規制に適合するものであるとして建築確認を受けていることは前に認定したとおりである。

同条の趣旨は、都市計画法上の用途地域の指定等に応じて、各地域における建物の建築につき、その周囲の一定範囲の土地上に規制時間以上の日影を生じさせてはならないという形で規制を行い、各地域の日照面での環境を保持しようとするものである。そして、同条の規制は、公法上の規制であるが、各地域の種々の利益を概括的に考量し、社会的に相当な日照の配分をすべく、規制基準として設けられているのであるから、右規制に適合する建物であれば、特別の事情がないかぎり、隣家に日影を及ぼしたとしても、私法上も一応受忍限度の範囲内であるということができる。

また、エクレールⅠの敷地の地盤は、本件土地の地盤より約6.5メートル低く、その境界は崖の法面となっていること、そのため、二〇一号室は、部屋全体が本件土地の地盤より下に位置し、こうした地形及びレストラン「やかた」によって、二〇一号室にはもともと午前八時から午前九時三〇分までと午後二時三〇分から午後四時までの合計三時間の日影が及んでいたことは、一1⑮において認定したとおりである。

さらに、本件土地の地域性をみると、疎乙第一四号証によれば、本件土地は、JR多賀城駅から徒歩七分、同駅からJR東日本仙石線でJR仙台駅まで二〇分といった交通の便が良く、徒歩一五分圏内に、多賀城市役所、市立図書館、多賀城郵便局、市民プール等の公共施設、多賀城泉保育園、東北学院幼稚園、多賀城小学校、高崎中学校等の教育施設、長崎屋多賀城店、みやぎ生協多賀城店等の大型店舗が集中しており、生活上の利便性も非常に良い場所に位置していることが一応認められ、本件土地の周辺地域では、今後、ますます住宅建設が進み、中高層化もある程度進行することが予想される。

本件建物の建築による債権者Aらの日影被害は、一1⑮において認定したとおりであり、必ずしも軽微なものとはいうことができないが、本件建物の建築による日影は建築基準法及びこれを受けた宮城県建築基準条例の規制基準に適合するものであること、本件土地とエクレールⅠの敷地との位置関係、本件土地の地域性を考慮すれば、債権者Aらの日影被害が、損害賠償を求め得るものであるかはともかく、受忍限度を著しく超えて本件建物の建築工事の差止めを求め得る程度にまで至っているということはできない。

したがって、債権者Aらの申立てのうち、債務者甲に対し、所有権又は人格権に基づき差止めを求める部分は理由がない。

4  本件駐車場部分について

疎甲第一九号証の二、疎乙第一〇号証の一、第二一号証によれば、本件駐車場部分により、エクレールⅠの二〇一号室(債権者D所有)が少なからぬ日影を受けることが一応認められる。

他方、疎乙第六号証の一、第二一号証によれば、本件駐車場部分による二〇一号室への日影は、本件建物による同号室への日影にほぼ含まれ、本件駐車場部分による固有の日影はほとんど存在しないことが一応認められるところ、本件建物の八階部分の建築工事を差し止めた場合、本件駐車場部分の固有の日影がどの程度であるかを認めることができる的確な証拠はない。

また、債権者Aらの申立ては、本件駐車場部分の二階部分全部について建築工事の差止めを求めるものであるところ、仮に本件駐車場部分の固有の日影が生ずるとしても、疎乙第一三号証の二によれば、二〇一号室に生ずる日影はそもそも部屋全体が本件土地の地盤より下に位置しているという地形に起因する部分が大きいため、本件駐車場部分のうち、エクレールⅠの敷地との境界に隣接する一部分の設計変更により本件駐車場部分に起因する日影は回復し得ることが一応認められる。したがって、本件駐車場部分の二階部分全部について建築工事の差止めを求めることは許されないことが明らかであるところ、差止めを求め得る部分を特定するに足りる的確な証拠はない。

このほか、本件建物の建築による日影は建築基準法及びこれを受けた宮城県建築基準条例の規制基準に適合するものであること、本件土地とエクレールⅠの敷地との位置関係、本件土地の地域性、債務者甲も本件駐車場部分の建築については駐車場の地盤を二メートル堀り下げる等の譲歩をしたことを考慮すれば、債権者Aらの申立てのうち、債務者甲に対し、本件駐車場部分の二階部分の建築の差止めを求める部分は、被保全権利の存在についての疎明がないといわざるを得ない。

5  以上のとおり、債権者Aらの債務者甲に対する申立ては、本件建物の八階部分の建築工事の続行の差止めを求める限度で理由がある。

三  債権者Aらの債務者乙信託に対する申立て

債務者乙信託が、債務者甲から依頼を受けて、エクレールⅠの販売代理業務を担当したこと、債務者乙信託が、債権者Aらと債務者甲との売買契約締結から間もない平成五年六月ころ、債務者甲に対して本件土地の購入を打診したことは、前に認定したとおりである。

しかしながら、右の経緯に照らし、債務者乙信託が本件建物について販売代理業務を行うことが、債権者Aらとの関係で直ちに信義則に反するということはできず、他に債務者乙信託の販売代理業務が信義則に反するというべき事情を認めることはできない。

したがって、債権者Aらの債務者乙信託に対する申立ては理由がない。

四  債権者Aらの債務者丙建設に対する申立て

債務者丙建設は、債務者甲との契約に基づき本件建物の建設工事を行っているにすぎず、債務者丙建設の建築工事が債権者Aらとの間において売買契約違反又は信義則違反となることを認めるべき疎明はなく、また、本件各専有部分所有権又は人格権に基づく差止めが認められないことは、前に述べたとおりである。

したがって、債権者Aらの債務者丙建設に対する申立ては理由がない。

五  債権者Bの申立て

1  疎乙第七号証、第一三号証の四、第三一及び第三二号証並びに審尋の全趣旨(債務者甲の平成七年八月一〇日付準備書面二二頁)によれば、本件建物の建築によって、カーサ二丁目には、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの日照について、全日の日照被害が生じること、もっとも、本件建物が建築されても、カーサ二丁目においては一、二階南面にそれぞれ四個ずつの窓(開口部)があるところ、冬至日においても、午前八時には一、二階の東端の窓に、午前一一時には二階西側の二個の窓に、正午から午後一時までの間は二階の全部の窓に、午後二時には二階の西側三個の窓に、それぞれ日照があること、カーサ二丁目の敷地の地盤は、本件土地の地盤より約一一メートル低く、その境界は崖の法面となっていること、そのため、カーサ二丁目は、建物全体が本件土地の地盤より下に位置し、こうした地形によって、カーサ二丁目にはもともと午前八時から午前一〇時三〇分までと午後二時から午後四時までの合計四時間三〇分の日影が及んでいたこと、本件建物の建築による日影時間の増大は午前一〇時三〇分から午後二時までの三時間半であるが、他方、重複する時間についても日影は拡大しており、その間は本件建物による影響がないとはいえないことが認められる。

2  カーサ二丁目が二階建アパートであり、主として学生に賃貸されている(入居者全員が徒歩約四分の地にある東北学院大学工学部の単身者である)ことは前に認定したとおりであるところ、債権者Bは、アパート選択の際、交通等の利便さに加えて、日当たりの良さが基準とされるため、カーサ二丁目に確保されていた日照が本件建物の建築によって大幅に奪われると、右建物の入居者が激減し、右建物の建築資金の返済計画に大きな狂いが生じ、大きな経済的損失が出るので、本件建物の日影被害による建物所有権の侵害は受忍限度を超えると主張する。

確かに、本件建物の建築によって、カーサ二丁目に1のとおりの日影被害が生じ、カーサ二丁目の入居者数に影響が出る可能性があることは否定できない。

しかしながら、前に認定したとおり、本件建物は建築基準法及びこれを受けた宮城県建築基準条例の定める日影規制に適合しており、建築確認を受けていること、本件建物が建築されても冬至日においてカーサ二丁目の二階部分では一定時間の日照はなお確保されること、本件土地とカーサ二丁目の敷地との位置関係、本件土地が第二種住居専用地域にあり、住宅建設が進むことが予想される地域であるという本件土地の地域性、カーサ二丁目の入居者全員が至近距離にある大学の単身者であること、その他債権者Bの主張する日影被害を原因としてカーサ二丁目の入居者が減少することによる経済的損失については、その日影被害が受忍限度を超えるものであれば、金銭賠償を求めることも可能であることを考慮すると、本件建物の建築によりカーサ二丁目が少なからぬ日影被害を受けるとしても、なお、右日照阻害が受忍限度を著しく超え、本件建物の建築の差止めが許される程度にまで至っているということはできない。

3  したがって、債権者Bの申立てはいずれも理由がない。

六  結論

以上の次第で、債権者Aらの債務者甲に対する申立てのうち、本件建物の八階部分の建築工事の続行の差止めを求める部分は理由があるからこれを認容し、債権者Aらのその余の申立て及び債権者Bの申立てはいずれも失当である(債権者Aらの申立てのうち、本件建物の七階までの部分の建築工事の続行の差止めを求める部分は申立ての利益を欠く)から却下し、右認容部分については、前記認定の諸事情を考慮して債権者らに担保を立てさせないで保全命令を発することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官橋本和夫 裁判官鹿子木康 裁判官坂田千絵)

別紙物件目録〈省略〉

売買代金一覧表〈省略〉

図面〈省略〉

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